法相会見(2023年8月1日)拷問等禁止条約の解釈;難民審査参与員制度

法務大臣閣議後記者会見の概要 令和5年8月1日(金)(外部リンク:法務省ウェブ


拷問等禁止条約の解釈に関する質疑について 

【記者】
 名古屋入管のウィシュマさんの事件についてお伺いします。この件の最終報告書には、ウィシュマさんの仮放免を不許可とした理由について、「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国を説得する必要あり」などという記載があります。このような恣意的な収容の運用は、拷問等禁止条約で定義されている拷問に当たるかと思われますが、大臣の見解はいかがでしょうか。現在、裁判係争中ということですので、お答えになれない場合は、一般論として御回答ください。
 また、関連してもう一つ質問ですけれども、改定入管法には強制送還に関する事項もあります。こちらの拷問等禁止条約の第3条の1に、拷問が行われるおそれがあると信ずるに至る実質的な根拠がある他の国への追放・送還・引渡しを禁じています。つまり、仮に入管法に基づいて強制送還が執行されるとなった場合でも、こちらの拷問等禁止条約の条項に反していないかどうか、こちらを別途検討する必要があるということかと思われますが、いかがでしょうか。

【大臣】
 まず、私は何度も申し上げていますが、ウィシュマさんが亡くなられたということに関しては、改めてお悔やみを申し上げたいというふうに思っています。
 その上で、お尋ねは、いずれも条約の解釈に関する事柄だろうと思いますので、法務大臣は所管外ですので、お答えすることは困難でありますけれども、その上で申し上げますと、御指摘の報告書については、仮放免許可申請に対する対応について、1回目及び2回目ともに仮放免を許可しなかったことが不当なものであったとは評価できないというふうにされています。
 すなわち、1回目につきましては、仮放免後の住居や医療費の支弁等に疑義があるなど、仮放免を不許可とすべき相応の根拠があり、不許可処分が不当なものであったと評価することはできないとされています。それから、2回目につきましては、より早期に仮放免や入院措置を行うことが望ましかったが、仮放免の環境を整えるには時間が必要な中、ウィシュマさんが亡くなってしまったことからすると、仮放免に至らなかったことにも相応の理由があり、仮放免を許可しなかったことが不当であったとまでは評価できないと記載されているところであります。
 もっとも、容態観察を要するなどの体調不良者について、身体の状況の的確な把握を踏まえた柔軟な仮放免を可能とすることが明確に示されてこなかった点ですとか、真に医療的な対応が必要な状況を見落とさないための教育や意識の涵養が不足していた点については、調査報告書でも指摘されているところでありまして、入管庁では、これらを踏まえて、健康状態を踏まえた仮放免判断等を指示する新たな仮放免運用指針の策定や、職員の意識改革を行い、運用を改善してきているところであります。
 これ以上の詳細につきましては、御指摘もありましたけれども、国家賠償請求訴訟が係属中でありますので、司法への影響に鑑みて、お答えは差し控えさせていただきたいというふうに考えています。

【記者】
 二つ目の条約については、検討をされたことはあるのでしょうか。

【大臣】
 先ほど申し上げたように、条約の解釈については法務省の所管ではありませんので、お答えできないということであります。


難民審査参与員制度に関する質疑について 

【記者】
 難民審査参与員制度の問題で、最近、入管庁の質問主意書、前回の国会での回答や、それから前回の国会で出した資料から、柳瀬参与員以外にも、臨時班について、大量に審査する参与員がたくさんいたと。2021年の場合だと、柳瀬さんが1,300件、その他の11人の参与員が平均940件。これは多分、常設班にも兼務していた場合はもっと多くなるという話だと思うんですけれど、一方で、2021年の場合は、口頭意見陳述をした人、対面審査をした人は、これ1割しかいなかったんです。700人しか。7,000人のうち1割だけだったと。こういった状況に対して、ほとんどが書類審査で臨時班でやっていたという状況に対して、現役の参与員の方たちからも、こういった形で対面審査をこれだけ少なくして、書類(審査)ばかりやるというのは、やはり形骸化しているんじゃないかと。この参与員制度というものがですね。という声がかなり出てきているんですけども、これについて、どういうふうに対応されますか。

【大臣】
 まず、一般論になりますけれども、難民審査参与員は、あらかじめ定められた3人の参与員によって構成された常設班に所属しているところではありますけれども、他の常設班への応援ですとか、迅速な審理が可能かつ相当な事件を重点的に配分している臨時班に掛け持ちで入ることに御協力いただける場合には、他の参与員よりも当然、担当する処理件数が多くなることは通常あります。その反面、参与員としての職務以外の職務の状況ですとか、御本人の体調ですとか、御家族・御家庭などの状況ですとか、異なる専門分野の難民審査参与員によって班が構成されるよう配慮するですとか、そういった事情から処理件数が少なくなる方もおられるわけであります。そして、臨時班について、これも何度も御質問を受けているわけでありますが、我が国においては、就労等を目的とする濫用・誤用的な難民認定申請が急増して、真の難民の迅速な保護に支障が生じる事態となっていたわけであります。そこで、平成28年以降、行政不服審査法上の手続を円滑に進めるとともに、迅速かつ公正な手続を促進するために、臨時的措置として、難民認定制度に関する知識又は経験豊富な3人の参与員によって編成される臨時班に、口頭意見陳述を実施しないことが見込まれる事件等、迅速な審理が可能かつ相当な事件を重点的に配分するという取組も行ってきているわけであります。そして、この迅速な審理が可能かつ相当な事件ということにつきましては、審査請求人が口頭意見陳述を放棄している事案などの書面審査が可能なものが大半でありまして、これによって迅速な審理が可能になっているということであります。また、迅速な審理が可能かつ相当な事件につきましては、経済的理由から難民該当性を主張するなど、難民に該当しないことを書面で明白に判断できる事案が大半でありまして、難民認定に関する知識又は経験が豊富な3名の参与員が参集して協議をすれば、短時間で結論の一致を得ることができるものも多いわけであります。したがって、このような措置をとっているわけでありまして、これも、この間記者さんから言われましたけれど、直近5年間に、行政訴訟で難民不認定処分の適否が争われて、これに対する判断がなされたものが109件。そのうち5件のみ国が敗訴しているという裁判結果になっています。私は、5件だからといって軽視するつもりは全くありませんので、この5件についても、なぜ国の判断、我々の判断が裁判で変わったかという点については、しっかりと検証してきているわけでありまして、より一層適切な判断がなされるように努力していきたいということに尽きるわけであります。参与員の方の御発言の話がありましたけれども、そういう制度の仕組みの中で行われているということを是非御理解いただきたいと思っています。

【記者】
 今の質問に関してですが、臨時班にかかったもの、それから常設班にかかったものについて、大臣が最終的に難民認定されたケースというのはあるのでしょうか。

【大臣】
 難民認定そのものを大臣がすると。そもそも難民認定をするかしないか、大臣がすることになっていますけれど、今、急な御質問なので手元にデータがありませんけれども、3人の参与員が判断したことを、大臣が覆すということは、ここ何年かなかったのではないかと記憶しております。


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